「新しい価値」を創造するために
常にファーストワンの存在を指し、 ビールの本質と心地良い驚きを世の中に届ける

引用元:シェア出版「THE PURPOSE vol.2」(リスナーズ出版)


代表取締役 坂本健二/ Kenji Sakamoto  取締役COO 村井庸介/ Yosuke Murai 

酵母が生きた「本当においしいビール」を広めるための事業を推進

「この世で一番おいしいビールは、工場のタンクから直接グラスに注がれる『どぶ』と呼ばれるもの。酵母が生きたままの、出来立てのビールなのです」
起業者、坂本健二の「本当においしいビールを作りたい」という想いから始まったアウグスビール株式会社。2004年の創業からクラフトビールの先駆け的存在として、原料からこだわり抜いた高品質・高付加価値のクラフトビールの醸造・販売を手がけている。

酵母が生きたままのビールは、常温だと発酵が進み、味が変化してしまう。そのため大手メーカーのビールは常温保存に耐えられるよう、加熱処理で酵母を殺菌して出荷する。
一方、「アウグスビール」は生きている酵母が生み出す甘味、苦味、旨味が混ざった豊かな味わいを提供するため、タンクから消費者の口に入るまで一貫冷蔵配送および冷蔵ビールサーバーにより温度管理している。

濁りのあるビールを口にすると、華やかな風味ときめ細かな泡が優しく口の中に広がる。炭酸ガスを抑えた一番搾りの「生」とは異なり、酵母が生み出す味は他に代えがたい。
飲み飽きのこない、料理と共に楽しめるビールだ。

  取締役CO0の村井庸介は、「アウグスビールの取扱店が、ミシュランガイドに掲載されたこともありました。⼿前味噌ですが、「プロこそ認めるビール」なんです」と胸を張る。同社が⼿がけるもう⼀つの事業が、レストランなどの店舗に併設する⼩規模醸造所「マイクロブルワリー」の導入支援だ。

アウグスビールの製造で培ったノウハウを⽣かし、プルワリーの導入から製造免許取得、技術指導、商品開発までオールインワンのサポートを⾏っている。既存の店舗に導入すれば、人件費や物流費をかけずに低コストでビールが造れ、粗を多く せる商品になる。

これまで 国20カ所の 刷⼯場や古  、温 地への導入を支援し、各地でオリジナリティあふれる出来立ての味を提供してきた。タンクが並ぶ景観も美しく、地域の集客装置となっている。

  

人に喜ばれる価値を 創造し続けるために。オンリーワンではなく常に「ファーストワン」を⽬指す

  「多くの方が、ビール造りは⼤⼿メーカーでなければできないことだと思っているでしょう。しかし、そうではないんです。そうした刷り込みを払拭し、世の中に知的ショックを与えたい。人に喜んでいただける新しい価値を、常に創造し続けること。これが私たちの存在意義だと思っています」

同時に、これまで誰も⼿を付けていないことを率先して⾏う「ファーストワン」の存在であり続けることが肝心だと、坂本は語る。アウグスビールがマイクロブルワリーの導入支援を各地で展開し始めた後、⼤⼿コンサル会社や、地方創⽣を事業テーマに掲げる人材会社などが次々と参入し始めたという。

「アイデアはすぐにコピーされ、2番⼿、3番⼿が⽣まれてきます。しかし、最初に始めたというポジションは唯⼀無⼆のもの。枠にとらわれないファーストワンの挑戦を続けてきたことが、当社が20年間事業を継続してこられた理由の⼀つでもあるのです」

ファーストワンになるためのビジネスチャンスを、常に探しているという坂本。酵母が⽣きたままのビールを飲食店でも楽しめるように、業界で初めてクール便を使った⼀貫冷蔵輸送と冷蔵ビールサーバーの貸し出しを⾏い、ビールを販売したのもアウグスビールだ。

クラフトビールブームの中でもいち早くIPAやホワイトビールの製造を始め、2022年11⽉にはリラックス効果が得られると話題のCBDを使ったビールを⽇本で初めて発売するなど、業界の第⼀人者であり続けている。

 ⼤企業の要職、経営コンサルタントを経て、それぞれで感じた⼤量⽣産の限界

  アウグスビールを創業するまで、坂本は数々の要職に就いてきた。⼤学卒業後にキリンビールに入社し、社内留学制度を利⽤してアメリカでMBAを取得。そのまま当地にとどまり、キリンUSAで副社長として販路拡⼤に当たった。

氷の入ったグラスに薄い味わいのビールを注ぎ、水のようにガブガブと飲むのが⼀般的なアメリカでは、「⽇本のビールは苦い」と言われ、まったく売れなかった。

   本社に「アメリカで受け入れられるようなビールを開発できないか」と掛け合っても、「味が分からないやつには飲んでもらわなくていい」と取り合ってもらえない。「辺境の戦⼠、ハンニバルのような気持ちでした」(坂本)

コクのあるビールを飲みたくなるシチュエーションをつくり出せないかと知恵を絞った 坂本は、「寿司屋をつくれば⽇本のビールも飲んでもらえるだろう」と思い付く。寿司屋の開業を⽬指す人の支援をし、開業した暁にはキリンビールを入れてもらう。10年間で数多くの寿司屋をつくり、ビールを卸し続けた。

帰国後、バドワイザー・ジャパン営業統括本部長に就任し、今度は「バドワイザー」を⽇本に売り込むことになる。水のように”薄い味わいのバドワイザーは、⽇本では学⽣が飲むビールというイメージが定着し、社会人に飲んでもらえなかった。そこで思いついたのが、 販促を担う「バドガール」の企画だった。インパクトのある衣装に身を包んだパドガールは当時の世相にマッチし、爆発的な人気を得た。

逆境の中でビールを売り続けてきた坂本。しかしある時、

「味で評価されたビールを売ったことがない」と気付く。

「⼀でいいから「うまい」と認められるビールを造って売ってみたい。それは、限られた予算の中で最⼤の益を⽬指さなければならない⼤⼿メーカーでは叶わないことでした」

退職を決意し、同じ会社に在籍していた醸造家の本庄啓介に声をかけ、「本来的な、本質の」という意味を持つ

「August」を社名に掲げたアウグスビールを設立した。

その頃成人し、ビールが飲めるようになったばかりの村井。⼤学卒業後に野村総合研究所で経営コンサルタントの職に就いた後、リクルート、⽇本アイ・ビー・エムといった⼤企業を渡り歩き、さらにベンチャー数社で幅広い経験を積んでいた。ブロックチェーン技術を使い、ビールを介したコミュニティーができないかと考えていた時に、ある飲食店のオーナーを介して坂本と出会う。

「それまでクラフトビールのク”の字も知らなかったのですが、アウグスビールを飲んで「これはおいしい!』と感動しました」(村井)

そこでビールの味は移動時間に勝てないこと、⼤⼿メーカーがコストを理由に削ぎ落としてしまっている部分に価値があることを知った。多くの企業の経営企画に関わってきた村井。資本主義や企業の成長戦は否定しないが、⼤量⽣産モデルが多⼤なロスを⽣んでいる現実も⾒てきた。

「どんなにいものでも、今の経済の仕組みの中で成長を追い求めれば、どこかでコストや上場の意が芽⽣え、⼤⼿メーカーと同じ道をたどることになります。マイクロブルワリーなら、ビール本来のおいしさや価値を損なうことなく全国へ広めていける。従来の資本主義の類にはないこの構想が、新しくておもしろい、まさに今⾃分が取り組むべきビジネスだと感じたのです」

くしくも出身⼤学、誕⽣⽇まで同じだった2人。坂本も、村井のマーケティングの⼿腕と、聞き⼿の心をつかみ頼を得るプレゼン能⼒の高さを⾒て、マイクロブルワリーを全国に広めるパートナーにふさわしいと感じた。2019年に村井がアウグスビールのCOOに就任し、同社は新たなスタートを切った。

  その後、マイクロブルワリー事業を全国展開させた功績が認められたことで、村井は2022年に取締役に就任し、現在に至る。

マイクロブルワリーがウイスキーの蒸留所にもなる新たな発⾒。今までにない「⽇本の味」を世界へ

  いいビールは優秀な醸造家によって造られると考える坂本。今後は、醸造家育成のための学校運営を視野に入れている。

「⼯場でトレーニングを受けながらビール造りを学ぶのもいいのですが、醸造や発酵について、より体系的に学べる会を提供したいと考えています」(坂本)

リモート環境が定着しつつある今、座学は全国のどこからでもオンラインで受けることができる。そのうえで、アウグスビールが導入支援を⼿がけた各地のブルワリーで、実習が受けられる世界観を想い描く。

村井は、⽇本のマイクロブルワリーを今ある700カ所から2,000まで増やしたいと語る。

「どの町にも蕎⻨屋やラーメン屋があるように、あの町に⾏けば〇〇ビールが飲める、というくらいクラフトビールの裾野が広がればいいなと思います。地域ごとに醸造家やブルワリーが⽣まれれば、どんどん磨かれたものが出てくるはず。全国の少年野球チームが磋琢磨する中で、世界の⼤谷翔平が⽣まれたイメージとでもいうのかな。⽇本のクラフトビールが、世界から注⽬されるような状況がつくれると楽しいですよね」と笑う。

さらに、アウグスビールが世の中に与えようとしている「知的ショック」がもう⼀つ。 同社のマイクロブルワリーでは、ビールと並⾏してウイスキーを造ることができること。

「ビールもウイスキーも、原料は同じ⻨芽です。実は製造⼯程の3分の2は同じで、「今⽇はビール、明⽇はウイスキー』というくらいの気軽さで両方造ることができるのです。この話をするとほとんどの方は非常に驚かれますね。ウイスキー造りの職人は、ウイスキーの製造⼯程をビール造りに⽣かせるとは思わないでしょう。これは、ビール造りに40年携わってきた我々だからこそ、気付けたことなんです。そのため、このビールとウイスキー製造の融合モデルをビジネスモデル特許として申請しました」(坂本)

クラフトビールと違い、常温保存ができるウイスキーなら、特産品として世界へ売りに出すことができる。近年、国産ウイスキーは「ジャパニーズウイスキー」として世界から注⽬を集めており、追い⾵だ。各地で造られたウイスキーの海外進出が、インバウンドの呼び水になる可能性も高い。

⾰新は辺境から⽣まれる。アウグスビールは⼤勢から距を置くファーストワンの取り組みで、⽇本の景色を変えようとしている。